安倍ミュージカル『おかえり』@青山劇場【評価A】

全体的に軽い感じで展開していったのに非常に好感を持った。事前情報によるとちょっと重たいのか?と思っていたがいい意味で裏切ってくれた。最後あっさりしていた、という人もいるだろうが私的にはこれでOK。

《テーマ》
 実は扱ったテーマは非常に大きいもので、最終的に『未来を知ってしまったミサキがどういう行動をとるか』という、人が絶対に辿り着くことのない境地をテーマにしている。そんな答えの出ないテーマに対して、押し付けの結論を与えるタッチで描くのではなくて、軽く『ミサキならこうしますよ』と描くことで『あなたならどうしますか?』と考えさせるものになっている。
《タイムスリップもの》
タイムスリップものというのは難しく、常に見てる側に違和感を抱かせるものである。例えばこの作品の場合、未来からやってきた男がミサキに出会って話をする。このことは、『未来に進むにあたっての予定調和の行動なのか』あるいは『未来を変えてしまう行動なのか』という疑問を話と関係ないところで持ってしまう。その上、違和感のあるタイムスリップシーンの存在もあり、観客をアンリアルな方向に誘っていく。しかし、リアルから離れていくことにより観客の『共感』は確実に減っていってしまう。冷めてしまうのである。それを補うのには、リアルなものと中和させることである。この作品でのリアルなものとは、ミレドの日常、極端に言うとミサキの存在である。で、今回その中和作業を行った触媒となったのは『軽さ』である。この軽さを持たすことが出来たのは安倍だけでなく、それぞれ良いキャラクターを持っているメロンと長江健二の存在であろう。
《松浦ミュの不幸》
アンリアルに展開していたのに、中和作業をすることなく、最後無理やり人間臭いリアルさを持ってきてしまったのが最大の不幸。脇を固める役者にキャラクターが無かったため視線分散が図れなかった不幸。安倍ミュと非常に対照的であった。